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研究科各専攻について

生命理学専攻

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分子神経生物学

動物は、常に変化する環境を的確に察知し適切な行動を選ぶことで、自らの生存の確保や子孫の維持を行う。当研究室は、その行動の基盤となる神経回路動態の分子機構・制御機構の解明を目的として研究を進めている。動物の精巧に出来た応答行動のメカニズムの解明には神経系の網羅的理解が必須である。 しかし、動物が高等になるほどニューロンの数は増加し、ヒトの脳に至っては約1000億個の神経細胞によって構築されているため、その神経回路網の組み合わせは天文学的な数値になる。個々の神経細胞(ニューロン)の物理化学的性質は、動物の進化を通じてほとんど変化していないため、我々は、特定の行動に関わるシンプルな神経回路の機能を網羅的に解明することによって、複雑な神経回路機能の基本原理を明らかにしたいと考えている。 具体的には、全神経回路網が同定されているC.elegans(Caenohabditis elegans)と呼ばれる線虫を実験モデル系として、特定の行動を、感覚、環境情報の記憶・学習、そして応答行動として出力するまでのすべての過程に関して、分子<細胞<神経回路<個体の4つの階層レベルを統合して網羅的に理解することを目指している。
C.elegansの神経系はわずか302個のニューロンから成り立っているが、水溶性物質(味)、揮発性物質(匂い)、酸素などの化学刺激や、接触や温度などの物理刺激に対して応答することができる。特に、温度に対する応答行動(温度走性)は非常に高度な神経機能の可塑性を伴う。これまでに、我々は温度走性を制御する神経回路を同定し、その形成や機能に関わる分子を明らかにしてきた。現在、温度情報の記憶や学習といった、より高度な神経活動を制御する分子および神経回路の同定を行っている。 さらに、ニューロン同士を接続するシナプス部位に着目し、神経回路内で神経情報がシナプスを介してどのように伝達されるのか、ニューロン内でシナプスがどうやって適切な位置に局在するのかに関して解析しており、それら個々のメカニズムがどの様に行動動態へ影響するのかを明らかにしつつある。研究手法としては、確立された分子遺伝学に加え、細胞生理学やライブイメージング、オプトジェネティクス、画像解析、自動顕微鏡制御など様々なアプローチを積極的に取り入れて研究を進めている。 また、これらの解析から明らかにされたメカニズムについて、数理モデルや計算機シミュレーションを用いて検証することも進めている。生物学だけでなく、情報科学や工学を専門に学んだ場合でも、神経科学に興味があれば応募を歓迎する。


脳回路構造学

動物の脳は、感覚器によって受容された音がその個体にとって意味を持つか否かを瞬時に判別できる。しかし、どのような神経回路がどのような組み合わせで動作した結果、そのような判断を導いているのか、その神経機構には多くの謎が残されている。 私たちは、比較的単純な脳を持ち、神経機能を制御できる実験ツールが整備されたモデル生物であるショウジョウバエに着目して、個体にとって意味のある音とそれ以外の雑音を区別する神経回路基盤の解明に取り組んでいる。 ショウジョウバエの雄は求愛時に、種に固有の音のパターンを持つ「求愛歌」と呼ばれる羽音を奏でることが知られている。 このような特徴的な音がショウジョウバエの脳でどのようにして理解されるのかを解明する目的で、ショウジョウバエの感覚神経回路の精密な投射地図作成(神経解剖学)、応答特性の解明(神経生理学)、各聴覚神経細胞の機能操作と組み合わせた聴覚行動解析(神経行動学)といった多方面からのアプローチを行っている。 このようなショウジョウバエを用いた研究から、種に固有の音から特定の情報を引き出し、価値判断につなげる神経機構を素過程レベルで理解したい。 さらにここから得られる知見を基にして、私たち哺乳類の聴覚システムにも共通する、種を超えて保存された音情報処理システムの動作原理の解明につなげていきたいと考えている。


卵細胞生物学

多細胞動物の個体としての歴史は卵に始まる。動物卵は、細胞としては例外的に巨大で特殊に分化した細胞だが、全ての種類の細胞がそれから形成されうる、すなわち、全能性を有した細胞である。また、多様な細胞種からなる複雑な構造をもつ動物個体を構築するには多数の細胞が必要であり、そのため、卵は、受精すると細胞分裂を活発に繰り返す、きわめて高い分裂能をもった細胞でもある。 私たちの研究グループは、動物、特に無尾両生類の卵の、全ての細胞種への分化を可能にしている核の全能性と、30分毎に分裂を繰り返すことができる高い細胞分裂能(ゲノムの複製能と細胞質分裂能)に着目し、卵の細胞核と細胞皮面の機能・構造的特質、および、その分子基盤を明らかにすることを目指している。すでに、受精卵の細胞核は、クロマチンや核膜の構成タンパク質が、分化した体細胞の核とは大きく異なっていることが明らかにされており、卵における特殊なゲノムの複製、発現制御との関連性が示唆されている。 また、卵の皮層構造や皮層の細胞骨格系が細胞分裂時に短時間で劇的に変化することが知られ、細胞質分裂を引き起こす収縮環の構築、収縮との関連が示唆されている。こうした核の構成タンパク質の特徴や皮層の構造変化を足掛かりにして、試験管内で卵の核を再構築しうるカエル卵無細胞系や、卵が巨大な細胞であることから調整が可能になっている単離細胞皮層などを駆使した分子細胞生物学的アプローチを通じて、卵に分化全能性という高い分裂能をもたらしている細胞システムの分子基盤を解明したい。


生殖分子情報学

生物が生殖を達成する背景では、遺伝や発生とも関連して、様々な細胞間および細胞内のシグナリングがはたらく。当研究グループでは、植物から粘菌、ヒト、マラリア原虫に至るまで幅広い生物を用いて、生殖・遺伝・発生・種分化の鍵となる分子情報の解明を目指している。 たとえば植物では、花粉管がいかにして正確に卵組織までたどり着けるのか、鞭毛のない2つの精細胞がいかにして移動し選別的に重複受精を行うのか、顕微技術と分子生物学を融合させた新しいライブセル解析技術や、独自のin vitro系により明らかにする。 最近では、化学や工学との異分野融合により、花粉管ガイダンスの実体を担う分子の同定や、受精や初期発生のライブイメージングについて、世界に先駆けた研究を展開している。また、生殖において様々な働きをするミトコンドリアについて、核様体制御の視点から明らかにすることを目指す。 これらに加え、広く生物学と化学の融合により推進される研究を展開している。


細胞内ダイナミクス

微小管細胞骨格は真核細胞において多様な機能を担う。微小管がどのようにして生成され、動的性質を獲得し、さらに、細胞分裂装置・スピンドルなどの高次構造を形成するのかを解明したいと思っている。 そのために、動物細胞、植物細胞(ヒメツリガネゴケ)、酵母を材料に、高解像度の生細胞イメージング、生化学、コンピュータシミュレーション、遺伝子を組み合わせた多角的な手法をとっている。


細胞間シグナル

多細胞生物のかたちづくりや環境応答には、様々な細胞間シグナル分子とその受容体を介した細胞間情報伝達が必須である。しかし、新しい細胞間シグナル分子(リガンド)を見つけ出すことは、その存在量の少なさや遺伝子重複などの理由から容易ではなく、結果的にリガンド未知の受容体分子が数多く残されたままになっている。 当研究グループでは、植物を主な材料として、複雑な細胞内情報伝達カスケードの最初のスイッチとして機能する新しい細胞間シグナルの探索や、その受容機構の解明に取り組んでいる。現時点で残されている細胞間シグナル分子を同定するには、既存の手法とは異なるアプローチが必要である。分泌型ペプチドの活性に必要な翻訳後修飾酵素を同定し、その欠損株の表現型に着目して背後にある翻訳後修飾ペプチドを見出したり、比較的遺伝子重複の少ない受容体側からシグナル分子の機能を特定するなどの新しい試みを進めている。


生殖生物学

生き物の性は遺伝子や環境などさまざまな要因によって決まる。また性を転換させてしまう生き物もいる。このような性決定の多様性や性転換の背後には、雌か雄のどちらか一方になることを保証する「性のコアメカニズム」が存在し、幹細胞の制御とも関連して機能する。 このメカニズムは「卵巣や精巣の大きさ」や「配偶子形成のタイミング」など、生殖の他の現象とも連動して多様な生殖様式をもたらす原因となることもわかり始めた。メダカは遺伝的に性が決まる動物でありながら環境による性決定や性転換が解析でき、生殖のさまざまな現象の解析も可能である。 研究室では、トランスジェニック個体や突然変異体作製、キメラ解析、網羅的遺伝子発現解析、イメージング等の技術を駆使し、性や生殖の多様性をもたらす性のコアメカニズムが幹細胞制御とどのように連動して性を決めるのか、どのように他の生殖現象をも制御するのか、その分子機構の解明を行う。またそこから得られた結果を他の生き物を用いて検証することで、生き物が分子機構を変容させ豊かな性や生殖の現象を示すのかを理解することを目指す。


発生成長制御学

生物の発生と成長はさまざまなレベルの制御システムにより調節されている。私たちは、その調節のしくみの普遍性と多様性の理解をめざし、多様な生物を用い以下の広範な研究に取り組んでいる。 1)モデル植物シロイヌナズナとヒメツリガネゴケを用いた、植物の形態形成・細胞増殖に関与するオルガネラ機能の分子生物学・細胞生物学的研究。 2)メダカと雌雄同体魚を用いた、生殖器官(生殖巣と生殖輪管)性分化の分子機構の研究。 3)主にショウジョウバエを実験動物として用いた、生体防御、組織の成長の制御、幹細胞の維持などの個体の発生、維持にかかわるメカニズムの研究。 4)ショウジョウバエを用いたミトコンドリアの特殊化が発生過程において細胞の分化や機能を調節する機構の遺伝学的研究。 5)モデル動物線虫C.elegansを用いた形態形成に果たす神経軸索伸長制御因子の役割やシグナル伝達の仕組みの研究。光遺伝学的細胞活動操作を利用した線虫神経系の解析。


細胞制御学

細胞の分裂・分化過程において、細胞の形態的・力学的表現型(形状・剛性・張力・運動性など)を規定する重要なシステムが細胞骨格系である。細胞骨格蛋白質の代表格であるチューブリンやアクチンが細胞質内に連続的なネットワークを形成するのに対し、セプチンは不連続なクラスターとして散在する点でユニークであり、解明すべき謎が多く残されている。 当グループはこれまでに、セプチン細胞骨格系が細胞分裂以外にも神経突起形成やシナプス伝達などを介して個体レベルの形質(行動)や精神・神経疾患に関与することを示してきた。このように、細胞分裂・分化関連因子を欠損(または過剰発現)する遺伝子改変マウスやアフリカツメガエルの初期胚の解析を通じて、ニューロン・グリアネットワークの形成、記憶・学習など機能発現、神経変性のメカニズムの謎を解明していくことを研究の柱としている。


分子修飾制御学

私たちの体の中でタンパク質は必要なときに合成され、その役目を終えると分解されています。従来タンパク質はその合成過程で厳密にコントロールされ、分解過程は細胞内で不要になったものの単なるゴミ処理機構と考えられていました。しかしながら近年の研究により、実はタンパク質分解もさまざまな生体機能を積極的にコントロールする制御系であることが明らかになり、非常に関心を集めています。私たちは、この中でもユビキチン-プロテアソーム系を介したタンパク質分解機構に注目し研究しています。
またユビキチンに非常によく似ている分子 ISG15(Interferon-Stimulated Gene 15)はインターフェロンや細菌・ウイルス感染などにより急激に発現が誘導され、ユビキチンと同様に様々なタンパク質の翻訳後修飾に用いられますが、その生理的役割はほとんどわかっていません。 しかしながら、私たちは ISG15修飾がいくつかのタンパク質の活性を増強することを報告してきました。自然免疫における ISG15修飾の役割を解明することは、疾病の予防や治療に貢献できると考えています。
細胞膜は脂質二重層構造を基本としますが、その内層と外層で脂質の組成や役割が大きく異なります。その様な非対称性は細胞の生存に必須であり、その異常は多くの疾患とも関わっています。 最近、脂質非対称性の維持・調節にユビキチン修飾が深く関わることが明らかになりました。そこで、ユビキチン修飾を通した生体膜の恒常性維持機構にも注目して研究しています。


超分子構造学

個々の遺伝子が作り出す蛋白質が互いに複雑に相互作用しながら生理機能を果たす仕組みを解き明かすことがポストゲノム研究の一つの大きな柱であり、蛋白質複合体の構造解析は特別に重要な意義をもっている。 私たちは細胞内輸送、転写制御、細胞周期制御、細胞骨格など、細胞生物学・生理学において重要な位置を占める研究課題を取り上げ、特に中心的役割を果たす蛋白質複合体の原子レベルの構造解析を重視し、さらに構造をベースにした機能解析による検証を行い、分子メカニズムを厳密に解き明かすことを目指している。X線結晶解析、クライオ電子顕微鏡やNMRなど、多彩な手法を相補的に駆使した最先端の構造生物学的研究を推進している。
また、生体膜の動的形態分子制御機構の解明にも取り組んでいる。リポソーム(人口膜小胞)は脂質二重膜の最も単純化したモデルで、多くの生体膜の研究に用いられている。特に直径が1μmを超える巨大リポソームは、光学顕微鏡を使い直接リアルタイムで観察することができる。 この巨大リポソームを用いて、膜の裏打ち構造を構成する蛋白質、膜作用性ペプチド、生体由来の両親媒性化合物などとの相互作用によって引き起こされる膜のダイナミックスを捉え、その仕組みを明らかにすることを通じて、生体膜の動的な形態制御の分子機構の解明を目指している、さらに脂質膜の表面での、蛋白質やペプチドの分布や動態を決める機構についても研究を進めている。


生体膜機能

細胞を包む膜には、生命維持に最も重要な超分子構造体である感覚レセプターやエネルギー変換蛋白質が埋め込まれ、機能している。 私達のグループはバクテリアのもつ運動器官であるべん毛を主な研究対象として、その超分子複合体のエネルギー変換機構、局在化機構、構築機構、および環境に対する細胞応答について研究を行っている。 細菌べん毛は、膜に埋め込まれたミクロ回転モーター(蛋白質の集合体)によって駆動されている。このモーターは、膜を隔てたイオンの電気化学的ポテンシャルを回転という機械的なエネルギーに変換する新しいタイプの分子機械(超分子ナノマシン)である。 イオンの流れがどの様にして回転力に変換されるか、エネルギー変換ユニットの構造はどの様なものかなどを、遺伝子工学、生化学、生物物理学の手法を用いて解析している。 また、海洋性ビブリオ菌では、べん毛は極に1本だけ形成される。どのようにして、超分子べん毛が位置と本数を厳密に制御して形成されるのか、そのメカニズムも調べている。 さらに、べん毛は運動器官であると同時に、タイプIII型に分類される細菌病原因と類似の輸送装置である。そのユニークな蛋白質輸送機構についても研究している。 このように我々は、これら生命現象において、最も分子生物学的研究の進んだバクテリアを用いて解明し、そこから生物マシンの作動原理と統合的な生命システム像を導き出すことを目指している。具体的には、 1)タンパク質を精製して結晶構造解析、NMRによる動的構造解析、分光解析、熱解析などの物理化学的解析、 2)超分子複合体のべん毛構造の電子顕微鏡観察、 3)蛍光タンパク質を融合した一分子モーター観察、 4)イオン流の測定やべん毛の高分解能回転計測などの結果から、べん毛の回転機構と制御機構を解明、 5)べん毛のモーター部分を試験管内に再構成して、構成する輸送蛋白質の機能の解明やエネルギー変換機構の解明をする。 以上のように、膜蛋白質をキーワードに、生体膜の機能を分子レベルで理解することにより、生命現象を深く追求しようとしている。


形態発生学

脊椎動物の骨格の中でも、特に手足の骨格パターン形成に着目した研究を行っている。 私たちヒトを含む脊椎動物の手足の発生は、胎児期に肢芽と呼ばれる膨らみが体の前後軸に沿って種に固有の位置に形成されることから始まる。 その後、肢芽の伸長に伴って内部に軟骨のパターンが形成され、肩から指にかけての位置特異的な骨の形が作られる。 私たちは具体的には、1)体の前後軸上における手足の位置が決定されるメカニズムを解明するために、肢芽の発生に必須な遺伝子のエンハンサーの活性化機構を発生学的・分子生物学的に解析、 2)肢芽の伸長機構を解明するために、イメージングと力学的作用に着目した解析、 3)指の骨格パターンと形態を理解するために、指形成に必須な転写因子のターゲットを次世代シークエンサーを用いて探索、 4)手足の位置の多様性を解明するために、様々な脊椎動物の胚を採取し進化発生学的に解析している。 特に近年ではヘビの手足が退化したメカニズムや、足が体の後側に作られる仕組みに関して進化の過程で起こった遺伝子の変化を見つけ出し、発生学的、生化学的手法を用いて分子レベルで、脊椎動物の進化過程で何が起こったのか解き明かそうとしている。


生体機序論

生物は生体内のプログラムあるいは外部からの刺激により、細胞および個体レベルでその機能や形態を自在に変化させることで、細胞増殖・分化・発生・再生などのさまざまな生命現象を制御している。 本研究分野では、これらの生命現象を制御する分子機序とそのシグナルネットワークについて、線虫および培養細胞を用いた遺伝学的および分子生物学的な解析を行っている。線虫をモデルとした研究では、主に神経軸索の形成および神経切断後に起こる軸索の再生について研究を進めている。 これまでに、増殖因子・コラーゲン・セロトニン・体内マリファナ等の細胞外シグナルが、切断軸索内のJNK型MAPキナーゼ経路やcAMP経路等を介して軸索再生を制御することを明らかにしてきた。 また培養細胞を用いた研究では、パーキンソン病関連因子LRRKによる細胞増殖・細胞内輸送・シリア形成およびオートファジー等の制御に着目し、それに関わる因子の生体内での機能や制御メカニズム、上流および下流のシグナルネットワーク等について解明を進めている。 これらの研究を遂行することにより、それぞれの生命現象の制御機構を明らかにすると同時に、将来的な創薬・医療の礎となる成果を得ることを目指している。


植物生理学

本グループでは、植物における環境応答のシグナル伝達と概日リズムの分子機構について主に研究を進めている。
土に根を伸ばし固定的な生活を営む植物は、変転する周囲の環境(光、水分、栄養、温度等)に的確に応答し、成長しなければならない。植物の表皮に存在する気孔は、このような環境変化に応答して開閉を行うことにより、光合成に必要な二酸化炭素の取り込み、蒸散や酸素の放出など植物と大気間のガス交換を調節している。 我々は、このような特徴をもつ気孔孔辺細胞を環境応答のモデル材料として、青色光による気孔開口反応や植物ホルモン・アブシジン酸による閉鎖反応のシグナル伝達について、生理・生化学・分子遺伝学的手法を駆使した解析を進めている。さらに、植物細胞の恒常性維持や様々な物質輸送、植物ホルモン・オーキシンによる細胞伸長に関与する細胞膜H+-ATPaseの活性制御機構についても解析を進めている。
また、植物は昼夜や四季といった時間的な環境変動に対して予期的に応答している。この働きを生み出す機構として、遺伝学的に組み込まれた概日時計が知られている。概日時計は、自律的に振動し、その周期は外部の環境変化にロバスト(周期の補償性)であり、また一方で光などの環境時刻を手がかりに体内時刻をあわせる働き(同調能)を持つ。我々は、分子生物学的な解析が容易であるシロイヌナズナを実験材料として、概日時計の分子機構について解析を進めている。


細胞生物学

真核生物の多細胞化は、生命が誕生してから現在に至る進化の歴史の中で最も重要なステップの一つとして位置づけられる。この多細胞化に必須だったのが、個々の細胞同士を結び付ける細胞接着機能の獲得である。 細胞接着を体構築の基礎とする多細胞生物において、細胞と細胞、あるいは細胞と基質がどのような機構で接着するのかを知ることは、細胞の分化や極性の発現、組織・器官の形成・維持などのより高度な生命現象のメカニズムを解明するためには、きわめて重要である。 当研究室では、細胞・細胞間の接着装置アドヘレンスジャンクションと細胞ー基質間の接着装置ヘミデスモソームについて、分子および細胞レベルで研究をおこなっている。特に、上皮組織の分化・形成・維持における、これら接着装置とその構成タンパク質の役割について注目し、解析している。


染色体生物学

あらゆる生物において、ゲノムを次世代に正しく分配・継承することは、細胞の正常な分裂と増殖を支える最も重要な基盤である。真核生物のゲノムは、「染色体」というかたちをとることで、ゲノムの均等な分配を可能にし、染色体構築過程における異常は、染色体の不分離、延いては異数化、癌化、細胞死の原因となる。 当研究室では、染色体という構造がいかに構築され、細胞の分裂に際していかに正しく分配されるのか、そのメカニズムを明らかにすること、そして細胞周期を通じて染色体の構造をダイナミックに変化させる分子基盤を明らかにすることを目指している。特 にゲノムの複製に伴って確立され、分配に伴って切断される姉妹染色分体間の接着や、分裂期における染色体凝縮に焦点をあて、アフリカツメガエル卵、哺乳動物細胞、昆虫細胞、菌類を用いた多角的な細胞生物学的・生化学的アプローチにより、これらの分子メカニズムと進化的保存性を明らかにしていく。さらに染色体の構造変換、染色体機能と疾患の関連にもせまっていきたい。


海洋発生生化学

受精は、精子と卵の出会いにより始まり、細胞間相互認識、精子の卵黄膜通過、細胞膜融合、雌雄前核の合体により完了する。この受精の分子機構に関して、生化学的側面から研究を行っている。材料としては主に原索動物ホヤ類を用い、卵黄膜ライシンの構造と機能の解析、さらに受精に関わる新しいユビキチン-プロテアソーム系の解明を目指している。 また、ホヤ類は一般に雌雄同体で精子と卵を同時に放出するが、多くの種で自家受精しない点に着目し、MHCや抗体等の獲得免疫系を持たないホヤ類が、同種異個体細胞を識別する分子機構についても研究を進めている。
上記研究テーマの他に、ヘビ毒による出血機構と血管内皮細胞におけるアポトーシス誘導機構に関連する研究も行っている。


遺伝子解析学

植物細胞には他の生物には見られない特有な小器官である色素体(葉緑体など)があり、そこで行われる代謝や生合成の仕組みは植物の発生や分化を理解する上で大きな鍵を握っている。核ゲノムと色素ゲノムにまたがる色素体機能の発現制御の仕組みと、その仕組みができあがった進化の道筋を明らかにするために、色素体ゲノムの構造と進化、色素体遺伝子の転写と転写後の発言制御及びその制御に関わる核遺伝子ファミリーについて、分子生物学・生化学的な研究を進めている。 研究材料としては、コケ植物とクラミドモナスを主に用いている。


植物分子シグナル学

免疫系はホ乳動物を始めとした生物に広く保存されている感染防御応答システムであり、植物は固着の生活を営むが故に、極めて高度に発達した制御機構を保有している。私たちは、主にモデル植物であるシロイヌナズナを材料とし、特に植物ホルモンが誘導する免疫応答システムの解明を試みている。 免疫系は、UV、高温等の非生物学的ストレスや昆虫等の生物学的ストレス、さらには生長制御系と相互作用することにより最適化されるが、その分子機構の大部分は明らかになっていない。順逆遺伝学的手法に加え、トランスクリプトーム解析、独自に開発したタンパク質合成技術や生化学的アプローチにより重要制御因子を網羅的に同定し、機能解析を進めている。
また、上記テーマに加え、古細菌等を材料とし、次世代シーケンサーを活用して、ゲノム、トランスクリプトーム、リボソームプロファイリング、ChIP解析を行うことで、様々な生命現象を物質(核酸、タンパク質)の変化としてとらえる研究を進めている。


動物器官機能学

シュペーマンとマンゴールドはイモリを用いた解析から、胚の背側組織の一部が背側組織を正確に誘導する活性を持つことを示した(背側オーガナイザー)。魚類・両生類では、受精卵植物極に存在する背側決定因子が微小管依存性に胚背側に移動し、背側特異的遺伝子を発現させることで、背側オーガナイザーを誘導する。 背側オーガナイザーからの細胞間シグナルにより、胚は背腹・前後軸といった体軸を形成する。外胚葉の背側には神経組織が誘導され、その外側に神経堤が誘導される。体軸位置情報を基に、神経組織は領域化され、さらに複雑な組織を構築し神経回路を形成する。 中でも、小脳神経回路は、脊椎動物間で保存されており、神経回路形成や機能を理解する良いモデルとなっている。また、神経堤細胞からは、色素細胞など種々の細胞が産生される。 我々は、発生が早く、遺伝学的解析が可能で、種々の細胞や組織構築を蛍光タンパク質で可視化することができる、ゼブラフィッシュとメダカを用いて、初期背腹軸形成、神経堤細胞の分化、小脳神経回路形成のメカニズムを解析している。さらに、光遺伝学や神経活動のイメージング技術を用いて、神経回路の機能解析も進めている。

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