われわれの住んでいる宇宙は物質でできています。実はこのことは、素粒子物理学の現在の知識でも解くことができない深遠な謎を含んでいます。約140億年前に宇宙がうまれたとき、ビッグバンによるきわめて高温の環境のもとで、物質(粒子)と反物質(反粒子)が同じ量だけ生成されました。反粒子は、電荷の違い以外は、鏡に映した粒子とほぼ同じ性質をもっており、粒子・反粒子対称性(CP 対称性) と呼ばれています。 仮に、CP対称性が厳密に成り立っているとすると、宇宙が冷えていく過程で、粒子と反粒子は対消滅によってどんどん消えていってしまい、最終的には物質も反物質も残らない虚無の宇宙になってしまいます。宇宙が物質でできていることを説明するためには、CP対称性が厳密ではないこと(CP対称性の破れ)が必要です。これに対し、1972 年、CP対称性の破れを6種類のクォークの世代間混合で説明できると提唱したのが、小林誠、益川敏英の両氏です。これは、現在の素粒子標準理論の根幹を担う画期的な理論であり、この功績に対し、2008年ノーベル物理学賞が贈られました。 小林・益川理論をはじめとする素粒子標準理論は、名古屋大学も参加するBファクトリー実験など、多くの実験によって検証が進んでいます。しかし、素粒子質量起源の問題、宇宙バリオン数の問題、宇宙暗黒物質の問題、ニュートリノの問題など、まだ解明されていない謎は数多くあり、今後、素粒子標準模型を超える物理の解明が期待されています。