物理科学領域 理論

素粒子論(E)

1GeV領域から1019GeVにわたる広いエネルギー領域の素粒子現象の研究を通じて、標準模型を越える新しい理論体系およびその枠組としての場の理論のダイナミックスを研究している。現在行っている主なテーマは、超対称性理論や余剰次元理論、大統一理論、コライダー物理・フレーバー物理などの素粒子現象、宇宙素粒子現象、超弦理論、量子電磁気学の超高精度計算、対称性の力学的破れ、格子ゲージ理論の研究など。その他、場の理論の形式的整備の研究を行っている。

クォーク・ハドロン理論(H)

強い相互作用の基本理論である量子色力学(QCD)におけるクォーク・グルーオンと、その多体系であるハドロンの多様な現象の解明を主な研究目的とする。主な研究対象は、エキゾチックハドロンの構造解明、カイラル対称性の自発的破れと質量の起源、高温度・高密度等の極限状況でのQCDの相構造と相転移機構、および、高密度核物質中のハドロンの性質変化と中性子星内部における状態方程式への影馨などである。これらの物理現象解明を目標に、新しい理論や模型を開発しながら解析を実施している。

重力・素粒子的宇宙論(QG)

一般相対論をはじめとする重力理論の研究を行い、初期宇宙のインフレーションや現在の宇宙の加速膨張などの宇宙論的問題ならびにブラックホールなどの強重力下での現象の解明を目指す。また、重力理論と量子論との関わりを、量子情報の手法を用いて理解することを目標とする。

プラズマ理論(P)

電磁場と無数の荷電粒子からなる自己電磁力系としてのプラズマは、宇宙空間のいたるところで粒子加速や乱流輸送、爆発現象などを引き起こすとともに、核融合実験や高強度レーザー実験においても主たる研究対象となっている。これらのプラズマに生起する非線形現象を理論的に研究している。最近取り組んでいる研究テーマは、オーロラの発達と構造変化、無衝突プラズマにおける乱流輸送、爆発的磁気エネルギー解放現象などである。これらを解明するために、解析的アプローチだけでなく、超並列コンピュータを用いた大規模シミュレーション研究を積極的に進めている。

宇宙論(C)

宇宙構造の起源と進化について理論的な研究を全般的に行っている。最新の観測結果に基づきつつ、初期宇宙から現在の宇宙までを理論的に明らかにすることが研究目的である。近年の宇宙論は観測的進展が著しく、その理解のために理論研究の果たす役割は大きい。本研究室は宇宙全体の姿を明らかにするような宇宙論的観測プロジェクトにも理論の立場から参加している。研究の手法としても、純粋な解析的理論から大規模数値シミュレーション、さらには観測データの理論解析に至るまで、実に多様なアプローチが取られている。

理論宇宙物理学(Ta)

宇宙における天体形成や進化を解明することで、物理学を宇宙の進化の中で系統化することを目指す。銀河・星・惑星などの形成・進化の過程で重要な役割を演じる物理現象を、解析的及び数値シミュレーションの手法を用いて理論的に調べる。その際に現象を構成している物理素過程の研究を重視し、得られた知見をその他の分野の物理学にも応用することを目指す。

銀河進化学(Ω)

銀河は星と星間物質、暗黒物質からなる大集団であり、それ自体複雑な構造を持つと同時に宇宙論的なスケールでの基本構成単位となる天体でもある。銀河は様々な波長・エネルギースケールで多様な姿を持ち、多波長での研究が本質的に重要である。138億年にわたる宇宙進化の文脈から、銀河の形成・進化を多角的に研究し、また銀河形成に関する宇宙論的問題にも取り組む。多波長的アプローチという観点から、地上観測機器、宇宙望遠鏡、人工衛星等のデータ解析、および観測を再現する銀河形成進化の理論モデルの構築、そして最新のデータ科学の方法による基本方程式の構築という3つの視点から研究を進めている。

複雑性科学理論(ΣT

宇宙にある殆どの物質はプラズマ状態にある。多数の荷電粒子と電磁場から構成されるプラズマの物理系は、複雑性と呼ばれる非平衡かつ強い非線形性を有する状態にあり、非常にチャレンジングな研究領域である。ΣT研では、この複雑性科学のエッセンスを豊富に含んでいる磁場閉じ込め核融合プラズマを主な研究対象として、大型計算機を用いた理論シミュレーション研究を進めている。現在の主な研究テーマは、磁場閉じ込めプラズマにおける乱流輸送、構造形成、輸送制御に関する大規模シミュレーション研究やプラズマ輸送現象を表現する理論モデルの構築などに加えて、機械学習を利用したデータ解析、実験データとの直接的な比較手法の開発といったデータ科学研究、大規模シミュレーションに不可欠な数値計算技法や数値モデリングの研究などである。

非平衡物理(R)

学部の熱力学・統計力学で学ぶ対象は、例外なく熱平衡系である。しかし身の回りを眺めると、面白い現象はほぼ例外なく、熱や物質の激しい流れを伴う非平衡状態で起こっている。だが、それらを理解するための普遍法則は確立していない。R研では、様々な非平衡現象を計算機シミュレーションおよび解析的手法を用いて研究している。現在、研究室で行われている研究の主な内容は、(1)ソフトマターの非平衡統計物理学:コロイド系におけるブラウン運動や巨視的な粘弾性などのレオロジー挙動、自己組織化など。(2)過冷却液体のガラス転移の理論的研究。ガラス転移の熱力学描像の確立に向けた大規模数値シミュレーション。(3)非平衡現象の数理模型の解析。などである。

物性理論(凝縮系)(Sc)

量子力学に従う多粒子が相互作用する物質中では、量子性が本質な興味深い現象が発現する。典型例として、非従来型超伝導の発現や多彩な相転移現象・新規準粒子の出現による新物性がある。このような凝縮系物理における重要問題を、場の理論に基づき解析的および数値的に研究している。最近の主なテーマは以下のとおりである。(1)電子相関の理論:遷移金属化合物や希土類金属、有機導体では、電子間に働く強い相互作用によって、高温超伝導現象など様々な興味深い現象が発現し、その起源の解明に取り組んでいる(2)量子相転移現象:量子力学的な揺らぎが協力的に発達した金属において実現する、電子液晶秩序などユニークな相転移現象や、臨界現象を研究している。(3)新規準粒子による創発現象:金属中では、波動関数のベリー位相により、有効質量ゼロのDirac粒子など多彩な準粒子が出現し、その興味深い物理現象を研究している。

物性理論(量子輸送)(St)

物性物理学における現代の諸問題のなかでも、スピントロニクス、トポロジカル物質、量子輸送現象を中心に理論的に研究している。スピントロニクスは電子のスピンを利用してエレクトロニクスの技術革新を図る分野であり、物理学の観点からも興味深い新現象が多い。また近年、固体内電子の波動関数が非自明なトポロジーをもつ新しいクラスの物質(トポロジカル物質)の存在が認識されてきた。これらについて、量子統計力学や場の量子論の手法にもとづき解析的・数値的に研究している。最近の研究テーマは、(1)トポロジカルな磁化構造と電気伝導、(2)電子および他の素励起によるスピン輸送、(3)反強磁性体やトポロジカル物質を舞台としたスピントロニクス現象、(4)力学的スピン流生成、(5)新規トポロジカル量子現象の提案、など。

計算生物物理(B)

Biological complexes, structured ensembles of proteins and nucleic acids, perform many vital cellular functions and dysfunctions of those result in severe diseases. In order to understand diseases and develop treatments, the functional mechanisms of these biological complexes need to be elucidated. A crucial step in this process is the characterization of the structure and dynamics of these complexes. Our goal is to develop computational methods to obtain atomic level description of the functional states of biological complexes. Such methods will rely on the integration of computational simulations with various experimental data such as high resolution X-ray crystallography, lower resolution cryo-EM and X-ray Free Electron Lasers.
The research in the lab is interdisciplinary. We use physics, chemistry, and computational science to study biological systems. More specifically, to describe the dynamics and energetics of biological molecules, we use empirical force fields based on the physico-chemical properties of atoms or, to reduce complexity, we also use coarse-grained models. Then methods such as molecular dynamics simulations/normal mode analysis are used to obtain structural models by incorporating experimental data into the modeling procedure, where numerical optimizations techniques, such as Monte Carlo and gradient following techniques, need to be implemented in programs.

物理科学領域 実験

基本粒子(F)

素粒子現象をサブミクロンの精度で可視化できる原子核乾板とその読み取り装置を用いて、素粒子・宇宙をはじめ、それらにとどまらない研究を展開している。原子核乾板はタウニュートリノ検出の実績をもつ世界で唯一の検出器であり、この特徴を生かしニュートリノ振動の研究を推進している。また40nmサイズの超微粒子原子核乾板を独自開発し、宇宙の暗黒物質を検出する実験を準備している。宇宙の暗黒物質の正体解明は今世紀の物理学の大きな課題の一つであり、超微粒子原子核乾板は暗黒物質の入射方向を同定でき、その検出のみならず将来暗黒物質望遠鏡としての役割を果たすことも期待できる。並行して原子核乾板を用いた超高分解能γ線望遠鏡の開発も行っており、2023年にはオーストラリアにおいて口径面積2.5m2の検出器による観測を行い、解析を行う予定である。また世界最大口径10m2の次期望遠鏡の開発を行っており、銀河中心か らのγ線やバースト現象などの高精度解析も目指している。

高エネルギー素粒子物理学(N)

ヒッグス粒子が発見され、標準模型を超える新しい素粒子現象の発見が期待されている。新しい現象の発見により、ダークマターの正体、素粒子の質量や世代構造の起源、真空や時空構造の理解、力の大統一など、現代素粒子物理学の課題の多くに迫る事ができる。これらの課題に挑戦するために、当研究室は、世界最高エネルギーの陽子陽子衝突型加速器を用いたLHC実験と、世界最高ビーム強度の電子陽電子衝突型加速器を用いたスーパーBファクトリー実験を主導している。LHC実験では、超対称性粒子や余剰次元粒子など未知の素粒子の発見を目指すとともに、ヒッグス粒子の性質の理解、トップクォークの生成・崩壊の精査をする。スーパーBファクトリー実験では、B中間子やタウレプトンの崩壊の中に現れる未知の素粒子が引き起こす新しい現象の探索をする。さらにJ-PARC加速器施設でのミューオン異常磁気能率測定による新物理探索も手がけている。また、これらの実験で用いられる、最先端のテクノロジーを駆使した粒子検出器と電子回路の開発・建設・運転も精力的に行っている。さらには、物理解析には欠かせない高速ネットワークを駆使した大型計算機システムの設計・構築・運転にも力を入れている。

素粒子物性(Φ)

低速の中性子やミューオン、原子核を用いた精密測定により素粒子物理学の実験的研究を行っている。実験には世界最高輝度を誇るJ-PARCのパルス中性子やミューオン、カナダTRIUMF研究所のイオンビーム、さらにフランスLaue Langevin研究所、アメリカNISTなど国内外の研究用原子炉を利用する。中性子を用いた研究テーマとしては、中性子崩壊寿命測定、複合核状態における空間・時間反転対称性の破れの増幅効果、中性子原子散乱及び中性子干渉における未知相互作用(短距離重力を通じた余剰次元やダークエネルギー等)の探索、超冷中性子光学や結晶回析を用いた中性子電気双極子能率の探索、中性子反中性子振動を通じたバリオン数非保存過程の探索などがある。必要な高性能中性子デバイス(集光光学系、スピン制御、ビーム整形、検出器など)を開発する。デバイスのテストなどに活用することができる小型の中性子源自体の開発も同時に行っている。さらに、ミューオンを含む原子の超微細構造に現れる新物理の探索実験などにも参加している。

宇宙線イメージング(μ)

宇宙線中に含まれる素粒子ミューオン(μ)を利用した巨大構造物内部の非破壊イメージング技術(宇宙線イメージング)の開発とその多分野への展開を進めている。原子核乾板と呼ばれる写真フィルム型の素粒子検出器を用いて、その開発・製造から観測の立案・実施、解析までの全てを行う。2017年にエジプトのクフ王のピラミッド内部に発見した未知の空間の三次元構造の解明を目指した研究開発を進めている。また、マヤ文明のピラミッドやイタリアの地下遺跡探査も進めており、文理融合研究による宇宙線イメージング考古学を開拓している。社会インフラ(河川堤防・盛土などの土木構造物の健全性評価や地下空洞の探査など)の老朽化点検や工業用プラント(原子炉や溶鉱炉)の内部診断技術などをはじめとした宇宙線イメージングの社会実装を目指しており、多分野の研究者との学際研究や企業との共同研究も積極的に進めている。

天体物理学(A)

あらゆる天体の起源である星間物質が放射する電波(ミリ波・サブミリ波)に着目し、138億年にわたる宇宙の歴史の中で生じる恒星や銀河の形成・進化過程の観測的研究を推進している。世界最大級のサブミリ波望遠鏡ALMAをはじめとする国内外の望遠鏡で取得したデータを用い、初代銀河形成期の星形成活動と星間物質の物理、星間物質を大量に持つ活動銀河の深宇宙探査から、天の川銀河の分子雲や恒星の形成過程に至るまで、多様な天体現象を研究している。さらに、次世代超大型サブミリ波望遠鏡の実現をめざし、日蘭共同開発の集積型超伝導分光器DESHIMAなどの主力焦点面受信装置の開発とそれを用いた天文観測、電波領域での能動補償光学の実証、高精度望遠鏡の設計、データ科学的信号処理法の開発を推進している。また、当研究室が南米チリに設置したNANTEN2望遠鏡による超広域分子雲サーベイ(NASCO計画)やそれを支える受信観測システムの開発を進め、銀河系全体にわたる星間物質の性質を探求する。

宇宙物理学(赤外線)(Uir)

近・中間・遠赤外線観測による、銀河系・近傍銀河の星間物質と星形成、銀河進化、太陽系外惑星などを研究課題としている。当研究室は、赤外線天文衛星「あかり」に搭載された遠赤外線観測装置を開発し、中間赤外線全天画像の作成を担当した。現在は「あかり」の膨大なデータに加えて、欧米の衛星観測データや「すばる」望遠鏡のデータなどを駆使して、上記テーマの観測研究を進めている。また、当研究室は南アフリカに近赤外線望遠鏡IRSFを所有しており、マゼラン雲などの詳細な観測も行っている。さらに、次世代の赤外線天文衛星用の光学系や焦点面観測装置の開発に携わるとともに、IRSF用の分光器や気球望遠鏡用の観測装置の開発なども行っている。また、将来の地球型系外惑星の分光観測に向けた宇宙干渉計や食分光器の開発を進めている。

宇宙物理学(X線、重力波)(Uxg)

X線観測・装置開発に加えて、重力波検出実験も行っている。
(1)銀河団やブラックホール、恒星フレアなど、宇宙の高エネルギー天体現象をX線を用いて観測し、高温ガスの大規模な運動や重元素の生成、衝撃波や粒子加速などを研究する。現用のX線観測衛星のデータ解析に加え、次世代のX線分光、偏光、硬X線観測を目指した、先進X線望遠鏡やその周辺技術、検出器などの衛星搭載の装置開発を推進している。2023-27年にはXRISM衛星、FOXSI-4ロケット、COSI衛星の打ち上げも迫る。また、将来のMeV宇宙観測の装置開発や、自然界の静電場加速器をさぐるための雷ガンマ線研究を進めている。
(2)宇宙誕生直後(10-35秒後ころ)に起こったと考えられているインフレーションの時代に生成された原始重力波を検出し、宇宙がどのように誕生したかを解明することに挑戦する。具体的には、スペース重力波アンテナDECIGOのため、量子ロッキングなどの新しい手法を用いて不確定性原理で規定される標準量子限界を破る技術を開発する。また、地上において原始重力波の検出を可能にするような全く新しい重力波検出方法の開発にも挑戦している。

複雑性科学実験(ΣE

恒星、太陽コロナ、オーロラなど宇宙空間で見えているものほとんどが「プラズマ」であり、多様なダイナミクスが知られている。一方で、核融合や半導体産業など、プラズマの高度な制御技術は現代社会の基盤技術となっている。ΣE研では、非平衡、非線形、複雑性、 階層性をキーワードとして、「非線形現象の宝庫」と言われるプラズマを“手の届く"実験室に実現し、その本質を探る研究を行う。具体的には、磁場閉じ込めプラズマを対象に、極限的な非平衡・不均一状態(乱流状態)を支配する法則に挑戦している。他にも、オーロラを出現させる磁気圏プラズマでも重要となるプラズマ中の波動粒子相互作用による粒子加速と異常輸送の研究、核融合装置の ITER、大型加速器であるCERN、J-PARCなどで重要となる負イオンビーム集束性に関する研究などを行っている。実験は、核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)、直線型高密度発生装置(Hyper-I)、中性粒子ビーム試験装置(NBTS)、電気対流乱流装置など、様々な規模の実験装置を使って物理的理解を深める研究を行っている。

固体磁気共鳴(I)

巨視的な量子状態をミクロに観測することで、物性を支配する普遍的な物理法則の解明を目指す。電子の運動を原子スケールで観測する手法である核磁気共鳴(NMR)によって、電子のわずかな対称性の破れを高感度に検出し、量子スピン液体や新奇な超伝導・超流動などの新しい凝縮現象を解明していく。また、超高圧、超低温、光検出磁気共鳴といった最先端の技術開発により研究を進める。これらの研究は、将来新しい高温超伝導体の設計、従来の性能を凌駕する量子コンピュータやMRI(磁気共鳴画像装置)のコア技術へと進展する可能性を持つ。

ナノ磁性・スピン物性(J)

ナノスケールで顕在化する新規磁性・スピン物性の解明と物理学の新概念の創出を目指した研究を推進している。最先端成膜・微細加工技術を駆使することで、新現象の発現の舞台を自らで人工的に設計・創製し、従来アプローチすることが困難であったような領域、特に、電子系・フォノン系・スピン系が強く結合したミクロな界面状態に関連する新領域を開拓する。最近の研究テーマには、(1)マルチフェロイクスと交差相関、(2)準粒子の伝播とトンネル現象、(3)マグノン-フォノン結合と熱輸送、 (4)スピン流と磁気秩序との相関、 (5)磁性と超伝導の相関、等がある。

機能性物質物性(V)

面白くて役に立つ新物質を設計・合成し、その物質の持つ機能を測定・理解することを研究目的とする。機能としては、物質の電気特性(電気伝導率、誘電率、熱起電力、非線形伝導など)に重点を置き、磁気的性質や構造物性を組み合わせることによって、その物質を総合的に理解することを目指す。現在は、(1)室温付近で巨大応答を示す酸化物、(2)熱と電気エネルギーを相互変換できる新物質、(3)相互作用が競合することによって生じる新現象、(4)珍しい構造から生じる新しい電子相、の4テーマに興味がある。生物物理学や物理化学の一部の研究室と共同研究できる。

応答物性(Y)

物質に対して電場・磁場・圧力などの「入力」を加えると、分極・磁化・歪みなどの様々な「出力」が生じる。この「入力」と「出力」をつなぐ「応答」物性は、物質中に潜むからくりを明らかにする重要な探針となるだけでなく、私たちの生活をより豊かなものにする有益な道具立てにもなり得る。我々の研究室では、結晶・準結晶・アモルファスなどの多様な物質系を対象とし、構造と物性の相関を手掛かりとして、特異的な「応答」物性を示す新奇な物質の設計と創出に取り組む。現在は、巨大な分極応答を示す不均一系酸化物誘電体や光照射によって誘電率が変化するワイドギャップ酸化物、さらに新奇な電子相関や磁気秩序を示す準結晶の研究を進めている。

生体分子動態機能(D)

タンパク質や核酸などの生体高分子は、構造変換や自己組織化、周囲の分子との結合や解離といった様々な動的過程を通じて独自の機能を発揮し、その階層的集積と連鎖が、細胞、組織を介して個体の生命活動として結実している。生命を理解するためには、その素過程、すなわち個々の生体高分子の構造とその時間発展、周囲の分子との動的相互作用などのダイナミクスを高精度に計測し、分子が働く作動原理を明らかにすることが重要である。我々の研究室では、溶液中環境下で高い時空間分解能で試料を可視化できる高速原子間力顕微鏡技術をベースに、物性マッピングが可能な新規機能の開発や他の先端一分子計測手法との複合化を進め、動態と機能が密接に関連した様々なタンパク質の機能発現機構を解明する。また、X線回折実験などの構造解析法を駆使して、生体分子の高次構造構築原理の解明も行っている。

光生体エネルギー(G)

太陽光エネルギーによって生命活動のエネルギーを創り出す光合成は、地球最大の生体エネルギー変換系であり、酸素呼吸型生命との炭素・酸素循環を通して地球環境を維持している。40億年にわたる地球と生命の共進化の主役であった、この光エネルギー変換系は、蛋白質と色素・金属によって精巧に構築された生体ナノシステムであり、高い量子効率と環境に応じた様々な制御機構を持つ。我々の研究室では、光合成における励起エネルギー・電子・プロトン移動の動的メカニズムを原子・分子レベルで明らかにし、光合成生命の進化過程を考究する。そのため、赤外分光を用いて巨大蛋白質複合体中の個々の分子振動を検出し、電子スピン共鳴を用いて電子の動きを捉える。特に、光合成研究の最大の謎である、水分解による酸素発生の仕組みの解明に挑戦する。

細胞情報生物物理(K)

生命現象は、様々な時空間スケールでの情報伝達、情報処理を伴う。生命現象にみられる情報変換の機構や過程を研究する。テーマの一つは、蛋白質のフォールディングや生物時計の機構などの分子レベルの研究である。フォールディングとは、ポリペプチド鎖が特異的な天然立体構造に変換される過程である。生物時計は生物がもつ内在性時間制御機構であり、特に時計蛋白質による概日反応に着目する。独自に開発した高速反応測定法や分光学的手法、分子生物学・生化学的手法をも用いてそれらの物理学的機構を解明し、生命現象の分子レベルでの理解を目指す。もうひとつのテーマは、細胞内、細胞間での情報伝達過程の解析である。細胞内での生体分子などの動きと反応をイメージングや電気生理学的手法を用いて測定し、その動態と変化の機構を解明する。

物理科学領域 宇宙地球環境研究所

大気圏環境変動(AM)

我々の生活に密接に関連する地球大気環境が研究の対象で、オゾン層破壊や地球温暖化のような地球規模の環境変化や地域的な環境汚染などが起きるメカニズムを解明し、環境問題の解決に寄与することを目的として以下のような研究を行っている。
(a)電波(ミリ波・サブミリ波)・赤外線などの最新技術を使用して、大気中の微量気体成分を高感度で測定する新しい計測装置の開発を行う。
(b)大気中の微量気体成分やエアロゾルの観測を行い、オゾン層破壊や地球温暖化に関連する物質の変動を調べ、その要因と大気環境への影響を明らかにする。
(c)太陽活動に伴い、地球の極域に降り注ぐ高エネルギー粒子が大気環境に与える影響を南極昭和基地や北欧での観測をもとに明らかにする。
(d)地球以外の惑星の大気について電波望遠鏡等の地上からの観測装置で調べ、地球大気との比較等を通してその特徴を明らかにする。

宇宙空間物理学観測(SSE

地球の超高層大気から近傍の宇宙空間まで広がる領域はジオスペースと呼ばれ、国際宇宙ステーションや各種実用・科学人工衛星に代表される様々な宇宙機が飛翔している。現代社会において必要不可欠な社会基盤が展開するジオスペースでは、太陽コロナから吹き付ける太陽風プラズマと惑星間空間磁場、地球固有磁場と電磁気圏プラズマ、下層大気からの力学的エネルギーと物質輸送が複雑に作用しあうことで、地球極域にはオーロラが出現し、静止軌道付近では宇宙嵐と呼ばれる大規模変動が引き起こされている。電磁気圏プラズマに代表される宇宙プラズマと惑星磁場、中性・電離大気の相互作用は、太陽系内のみならず遠方宇宙でも基礎的かつ普遍的な素過程である。従って、地球近傍の宇宙空間・超高層大気で起きている諸物理機構・変動現象を解明することは、宇宙開発に対する社会貢献だけでなく、宇宙に関する基礎的・普遍的科学知見の獲得を意味する。本研究グループでは、最先端の科学観測機器を独自に開発し、海外・国内での地上フィールド観測と探査機を用いた宇宙空間での直接観測を両輪とした観測的・実験的研究を行い、この領域における物理素過程と変動現象を解明していく。
1)北欧において、大型のレーダー装置を含む各種レーダー、ナトリウム温度・風速ライダー、ファブリペロー干渉計、オーロライメージャなどを用いた国際協力による拠点観測を実施。
2)宇宙空間・惑星大気を満たすプラズマ・中性粒子を計測するため、地球・惑星探査機、観測ロケットに搭載する分析器を研究・開発し、国内・国際協力を基盤とする探査・観測計画を提案・推進。

太陽宇宙環境物理学(SST

太陽宇宙環境システムの総合研究を、理論・シミュレーション・衛星及び地上観測データの解析を駆使することによって多角的に実施している。我々が生きる星“地球”とその周辺の宇宙空間(ジオスペース)は母なる星“太陽”と強くつながり、一つのシステムを形作っている。このため、地球環境は太陽と宇宙から絶えず影響を受け続けている。SST研は、太陽と地球が織りなすこの広大なシステムの謎を学際的に探ることができる世界でも数少ない研究室である。研究領域は、太陽黒点活動(太陽ダイナモ)、太陽フレア、コロナ質量放出、太陽コロナ加熱と太陽風、地球惑星の磁気嵐、オーロラ嵐まで多岐に渡る。様々な恒星や惑星磁気圏で起きる多様な宇宙プラズマ現象に関する理論シミュレーション研究を本格的に行うことができる。GPSや衛星通信などにより宇宙利用が人々の生活を支える現代社会では、太陽宇宙環境の変動を予測する宇宙天気予報の重要性が高まりつつある。SST研では太陽黒点活動、太陽フレア爆発、放射線帯の変動、宇宙嵐(ジオスペース嵐)などの予測を目指した先進的な宇宙天気研究も行っている。宇宙プラズマと中性大気の衝突の理論研究も行っている。宇宙プラズマの基礎から宇宙天気予報への応用まで、多岐にわたる研究と教育を実施している。

宇宙線物理学(CR)

宇宙線は宇宙から飛来する高エネルギー素粒子であり、宇宙での高エネルギー現象や未知の素粒子についての情報をもたらす。宇宙線観測による宇宙線加速や伝播機構の解明、宇宙線による素粒子物理の研究、宇宙線と太陽地球環境との相互作用の研究を行う。
a)銀河宇宙線観測による宇宙線加速機構の研究と暗黒物質探索。フェルミ衛星、MAGIC望遠鏡、CTAによるγ線観測により、宇宙での粒子加速機構の解明や、暗黒物質の探索を行う。
b)宇宙線による素粒子物理の研究。スーパーカミオカンデでのニュートリノ観測やXENON実験での暗黒物質WIMPの探索、またLHCでの超前方測定LHCf実験による超高エネルギー宇宙線反応の研究を行う。
c)宇宙線と太陽地球環境との相互作用。年輪中炭素14濃度や氷床中ベリリウム10濃度測定から、過去の宇宙線変動や太陽活動について研究する。

太陽圏プラズマ物理学(SW)

太陽の大気であるコロナは約100万度もの高温に加熱され、コロナ大気中の粒子は電離したプラズマ状態になっている。この大気の一部は太陽の重力を振り切り、超音速の風「太陽風」となって宇宙空間へと流出する。太陽風は惑星の公転軌道を遥かに超えて進行を続け、太陽-地球間の距離の100倍以上もの広大な領域に広がる「太陽圏」を形成している。太陽風は300km/sから800km/s程度まで場所や時期によって大きく変動し、その変動は地球を含む惑星圏環境にも大きな影馨を与えている。また、太陽では突発的なエネルギー解放現象によってプラズマ大気の塊の放出現象「コロナ質量放出(CME)」が発生する。太陽風やCMEによる擾乱は情報通信などの社会活動にも影馨を与えるため、近年「宇宙天気予報」の実用化が求められている。太陽風は電波を散乱する性質がある。そのため太陽系外の天体を電波観測中に天体と地球の間を通過する太陽風やCMEを電波の散乱現象「惑星間空間シンチレーション(interplanetary scintillation: IPS)」を用いて地上から観測できる。SW研では、IPS観測のための独自の大型電波望遠鏡群を保有しており、IPS観測を中核とした最先端の太陽圏プラズマ物理学研究を行なっている。例えば、太陽風の加速過程、伝搬過程、流源の探査など太陽風の性質を調べる研究、太陽圏のグローバルな構造や、その太陽活動依存性を調べる研究、CMEの発生機構や伝搬過程を理解し、その情報をデータ同化シミュレーションに取り込むことで宇宙天気予報の実用化を目指す研究、次世代の大型電波望遠鏡の実現に向けた観測機器の開発研究など、多様な研究を世界各国の研究機関と協力して推進している。

研究室の詳細:https://stsw1.isee.nagoya-u.ac.jp/